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[映像偏愛主義。]びしゃびしゃの美学――濡れが紡ぐドラマティックなアイドルMV

飛び散る水飛沫、濡れた衣装、滴る髪――びしょ濡れの瞬間は、感情の揺らぎや内面の葛藤、解放の瞬間を視覚化し、身体性を際立たせるアイドルMVにおける強烈な表現手法となる。そして、雨や水の演出がもたらす生々しさが、視聴者の感情を強く揺さぶるのは間違いない。

本稿では、アイドルたちがずぶ濡れとなるMVを4作品ピックアップ。

びしょ濡れが紡ぐ多様な表現の魅力と、その背景にあるカルチャー的意味を読み解いていく。

櫻坂46 「Make or Break」

スプリンクラーと稲光が炸裂する会議室セットで、雷が感情の爆発を視覚化。濡れた床とぎゅっと詰まった天井の圧迫感が濃密な空気を作り出し、スポーティな雰囲気な衣装と濡れ髪が強さと脆さの二面性を象徴している。濡れること自体が感情の儀式となり、極限の心理状態を映し出している。

 私立恵比寿中学「大人はわかってくれない」

反抗期をテーマにした2013年発表の「大人はわかってくれない」では、メンバーが暴風雨の中を匍匐前進で突き進むシーンが強烈。歌詞の“雨よ降れ 風よ吹け”と連動し、雨と風が葛藤と成長の象徴となっている。濡れながらも前へ進む姿が、青春の“本気”をリアルに描写している。

fishbowl「一雨」

傘を用いた群舞が印象的な「一雨」。雨は背景ではなくパフォーマンスの一部として機能し、身体表現と一体となっている。躍動感があり可憐な振り付けは、メンバーの一体感を際立たせながら、雨の持つ動的な魅力と合わせて観る者の心を強く惹きつける。

BiSH 「Bye-Bye Show」

2023年3月にリリースしたBiSH解散前のラストシングル曲「Bye‑Bye Show」MVには、メンバーが馬糞まみれとなる衝撃的なシーンが登場。これは2015年4月の初MV「BiSH‑星が瞬く夜に‑」で使われ話題となった馬糞まみれ演出へのセルフオマージュであり、8年の時を経てグループの根幹を象徴する“原点回帰”として機能している。涙ではなく泥と水で“解散”を可視化し、その潔さと逆説的祝祭をストイックに映し出した。

びしょ濡れは、アイドルMVの身体性と感情を爆発させる強力な表現装置。今回紹介した4作品では、視覚的ドラマを際立たせる技法として多様に用いられている。

そして、アイドル界での“びしょ濡れ”と言えば、雨模様の野外ライブが定番化しつつある乃木坂46にも最後に触れておきたい。『真夏の全国ツアー2025』ファイナルとして行なわれる9月4日(木)〜7日(日)の神宮球場公演は、どのような天候となるのか? 彼女たちの圧倒的なパフォーマンスとともに、空模様にも注目したい。

連載コラム「映像偏愛主義。」とは
MVを中心に、ライブ映像や演出、編集など“音楽映像”に潜む表現の妙を偏愛目線で掘り下げるコラム。アーティストたちの佇まいや動き、演出に込められた意図と感情を読み解きながら、カルチャーとしての美学を浮かび上がらせていく。

執筆:アオキツカサ
クラフトビールと古地図と温泉卵をこよなく愛する映像ディレクター。休日は道の駅のPOPを眺めながら余白の美学について考え、深夜には缶詰のラベルのフォントにしみじみ感動している。