NEWS

ニュース

[映像偏愛主義。]第2回:炎をまとえーー焼き尽くす感情を映し出すMV美学

炎の揺らめき、火花の散る刹那、爆風に揺れる髪ーー“燃え上がる”演出は、MVにおける強烈な感情表現となる。爆発や火の光は、激情や覚悟、破壊と再生のドラマを鮮やかに映し出し、視聴者の感情を熱に染めるのだ。今回は、炎と爆発シーンを収めたガールズグループのMVの映像構造とその美学を紐解く。

HANA「Burning Flower」

プールサイドの開放感と、炎に囲まれた夜のパフォーマンスがコントラストを成す本作。火柱と水面という対照的な要素が、キレのあるダンスとリンクし、映像に独特の疾走感と高揚感を与えている。炎は舞台演出の一部を超えて、情熱を可視化する“熱の化身”として機能している。

(G)I‑DLE「Revenge」

アパートの1室が爆発する衝撃的なシーンで始まるこのMVでは、サスペンスストーリーが展開される。炎は激情の象徴であると同時に、破壊によって始まる“再構築”の合図でもある。抑制された演技が、逆に怒りの輪郭を際立たせている。

BENNY「WOAH」

無機質な空間に突如現れる炎。クールな照明の中、火がダンサーの動きに呼応するようにリズムの一部として存在する。BENNYは火に包まれるのではなく、火を操る存在として描かれ、静かなカタルシスと力強さを同時に感じさせる。燃焼するというより、熱をコントロールしている印象だ。

我儘ラキア「SURVIVE」

冒頭、燃えさかる漆黒の空間で、全身を炎に照らしながら歌い踊るメンバー。その姿は“サバイブ”というテーマを直球で突きつける。後半には爆発し、火の粉が舞う中でパフォーマンスを展開。火の中を突き進むような姿は、生き延びることの覚悟と痛みをダイレクトに伝えている。

ラストアイドル「何人(なんびと)も」

炎を背に展開される殺陣が圧巻。メンバーが真剣な眼差しで刀を振るい、戦いながら進んでいく姿が、強い意志と信念を視覚化している。火は激情というより、覚悟の象徴。静と動を往復する構成がドラマ性を高め、アイドルという枠を超えた“表現の域”に達している。


爆発の一瞬、炎の揺らぎは、視聴者の感情を“加熱”する映像装置となる。火は破壊と再生、激情と浄化を象徴するヴィジュアル言語だ。今回紹介した5作品は、炎を通じて“映像はどう感情を燃やすのか”を可視化していた。次回もまた、新しい“映像偏愛”の切り口で、MVという物語の火種を探りたい。

連載コラム「映像偏愛主義。」とは
MVを中心に、ライブ映像や演出、編集など“音楽映像”に潜む表現の妙を偏愛目線で掘り下げるコラム。アーティストたちの佇まいや動き、演出に込められた意図と感情を読み解きながら、カルチャーとしての美学を浮かび上がらせていく。

執筆:アオキツカサ
クラフトビールと古地図と温泉卵をこよなく愛する映像ディレクター。休日は道の駅のPOPを眺めながら余白の美学について考え、深夜には缶詰のラベルのフォントにしみじみ感動している。