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[映像偏愛主義。]第3回:水面が煌めく瞬間――プールが映す、淡い感情のMV美学

真っ青な空、まぶしい日差し、水面の反射――プールは、夏の記憶や青春の断片を象徴的に映し出すMV空間の1つだ。

水に触れることで感情が溶け出すような瞬間や、季節の匂いを映像に宿すために、多くのアーティストが“プール”を舞台の1つとして選んできた。

今回は、そんな“プール”が印象的なMVを5作品ピックアップ。

アイドルからシンガーソングライター、K-POPまで、ジャンルを越えて“水面が語る物語”に迫っていく。

高嶺のなでしこ「初恋のこたえ。」


アイドルらしい純度の高い夏の風景が広がるMV。プールで展開されるシーンは、恋の始まりにともなう不安やときめきを、柔らかな光とともに描き出す。風になびく髪も、内面の揺れ動きを繊細に可視化。タイトルの“こたえ”を探すように泳ぐ眼差しが、切なくも甘い余韻を残す。

≠ME「ラストチャンス、ラストダンス」


開放的なプールで踊る姿が、ひと夏の高揚感と真っ直ぐな想いを際立たせる本作。プールは感情を浄化する場所というよりも、煌めきや期待を映し出すステージとして機能している。屋外の明るい光と爽やかな色彩が、等身大の少女たちの“今”をやさしくすくい上げ、青春のひとコマを軽やかに彩っている。

乃木坂46「ガールズルール」


夏の定番とも言えるMVだが、注目したいのは夜のプールシーン。静けさに包まれた水面に光が反射し、メンバーたちの動きとともに夏の一瞬が切り取られていく。昼間の開放感ではなく、夜特有の空気感と幻想性が画面を支配し、楽曲のセンチメンタルな余韻を強く押し出す。記憶の中にふと現れる“夜のプール”という舞台が、感情の揺らぎを見事に照らしている。

NewJeans「ETA」


iPhoneで撮影されたリアルな映像が印象的な「ETA」。プールは青春の日常の中に自然と溶け込む場所として登場し、浮かれた笑顔や仲間との戯れとともに、スリリングなストーリーが展開していく。明るい色調とは裏腹に、MVが最後にたどり着く“結末”とのギャップが鮮烈。プールはここで、物語の転調を予感させる“平和な舞台”として機能している。

ましのみ「どうせ夏ならバテてみない?」


ユーモラスな視点と、シュールな映像構成が際立つ作品。プールでくり広げられる“夏バテ寸前”の脱力系パフォーマンスは、夏の浮かれムードに一石を投じるような風刺的仕掛けとして成立している。画面に漂う“力の抜けたテンション”と、主人公たちの距離感が、見終わった後にじんわりと胸を打つ。


プールは、涼やかなイメージだけではなく、感情の境界線や“夏の正体”を映す鏡として機能する。それは、青春の入口かもしれないし、別れの予兆かもしれない。どこかで見たような景色なのに、MVの中のプールはいつも少しだけ特別だ。

連載コラム「映像偏愛主義。」とは
MVを中心に、ライブ映像や演出、編集など“音楽映像”に潜む表現の妙を偏愛目線で掘り下げるコラム。アーティストたちの佇まいや動き、演出に込められた意図と感情を読み解きながら、カルチャーとしての美学を浮かび上がらせていく。

執筆:アオキツカサ
クラフトビールと古地図と温泉卵をこよなく愛する映像ディレクター。休日は道の駅のPOPを眺めながら余白の美学について考え、深夜には缶詰のラベルのフォントにしみじみ感動している。